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いったとはは
一太と母
宮本 百合子
「女性」1927(昭和2)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,507 字 · 21 页
「ほんとにねえ」
と大きく嘆息したが、
「お父つぁんさえいてくれれば、こうまでひどい境涯にならずにいられたろうにねえ。お前だって人並みに学校へだってやれるんだのに……こうやって母子二人で食べるものを食べずに稼いだところで、この不景気じゃ綿入れ一つ着られやしない」
一太は困ったのと馴れているのとで別に返事をしなかった。
「私ほど考えれば考えるほど不運な者あありゃしない。親も同胞もない身で、おまけに思いもよらないこんな貧乏するなんて……本当にお前さえいなけりゃまた身の振り方もあろうが。――一ちゃん。しっかりしてくれなけりゃお母さん、何の望みで生きてるのか分りゃしないじゃないか」
母親の繰言に合の手を打ってビシャビシャビシャビシャ冷たい雨だれの音が四辺に響いている。一太は、ビシャビシャいう雨だれも、母親の怨み言もきらいであった。雨が降れば、きっと根本まで腐りそうなその雨だれの音と、一太によく訳の分らない昔のよかった暮しのことなど聞かされる。ああ、だから一太は雨っぷりが厭だ。けれども、本当にいつか、そんな母親の云うような縮緬の揃の浴衣で自分が神輿を担いだことがあったのかしら。