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いったとはは

一太と母

宮本 百合子

「女性」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,507 字 · 21 页

青空文庫

「今日はどこだい」

「池の端」

「ふーむ……やっこらせ! と、……洒落てやがんな、綺麗な姐さんがうんといたろう?」

「ああいたよ」

「チェッ! うまくやってやがらあ」

「なぜさ、善どん、なぜうまくやってやがらあ、なのさ」

「うまくやってやがるから、やってやがるのさ。チェッチェのチェだよ」

一太は、

「やーい、おかしな善どん」

と囃し立て、逃げる真似をした。

「なによっ! 生意気な納豆野郎!」

一太はそれを待っていたのだ。チョロリ、チョロリ、荷車の囲りを駈け廻って善どんに追っかけられた。大人と鬼ごっこするのが一太はどんなに好きで面白かったろう。むんずとした手で捕まりそうになると、一太は本当にはっとし、目をつぶりそうにこわかった。こわいだけなお面白い。母親と歩いていると、そんなに面白い善どんさえ、いつものように言葉をかけてはくれなかった。一太が懐っこく、

「善どん」

と声をかけても、

「や」

と云うぎりであった。真面目くさっていた。そして直ぐぶつぶつ、箕をふいて籾選りを仕つづけた。

それにしても雨降りよりは増しだ。

雨だと一太は納豆売りに出なかった。学校へ行かない一太は一日家に凝っとしていなければならないが、毎日野天にいることが多い一太にとってそれは実に退屈だった。