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いったとはは

一太と母

宮本 百合子

「女性」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,507 字 · 21 页

青空文庫

一太の家は、千住から小菅の方へ行く街道沿いで、繩暖簾の飯屋の横丁を入った処にあった。その横丁は雨っぷりのとき、番傘を真直さしては入れない程狭かった。奥に、トタン屋根の長屋が五棟並んでいて一太のは三列目の一番端れであった。どの家だってごく狭いのだが、一太母子は一層狭い場所に暮した。

「お前んち、どこ?」

と訊かれると、一太は、

「潮田さんちの隣だよ」

と躊躇せず答えた。が、それは家ではない、ただ部屋と云う方が正しかった。つまり、一太の母子は、長屋の一軒を自分で借りているのでなく、他人が借りて主人でいる、その唯二間の中の一部屋を更に借りて暮しているのだ。六畳が長屋の往来に向ってある。そこに伊藤のおじさん、おばさんが暮していた。次の三畳が一太の家であった。雨が降ると、だから一太はその三畳に母親とおとなしくしていなければならぬ都合であった。三畳は、大人の女一人が仕事でもして坐っているにはよいが、一太の往来を駈けずり廻る手脚にはお話にならず狭かった。一太一人ではない、母親が賃仕事をしている。一太は坐って隣室との境の唐紙にぶつかると叱られるから、大抵寝転った。頭を母の方に向け、両脚を、竹格子の窓に突出した。