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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

明智は上海から持って来た自慢の支那服を着て、合の中折をかむった。彼は数年以前に比べると、このごろではいくらか見え坊になっていた。自動車の中では、三人共余り物をいわなかった。てんでんに考え事があった。

「極くつまらないこと、素人が考えて、馬鹿馬鹿しい様なことが、謎を解く場合には随分重大な役目をつとめます。殊に犯罪には常軌を逸した馬鹿馬鹿しい事がつきものです。そういうものを馬鹿にしないことが犯罪を解く者の秘訣です。……こんなことを外国の有名な探偵家がいい遺していますよ」

明智はだれにともなく、ひとりごとをいっていた。

三人詰のクッションに、山野夫人百合枝を中にはさんで、右に明智、左に小林紋三が腰かけていた。紋三は車が揺れて山野夫人の膝が彼の膝を押すたびに、段々身をすくめて、隅の方へ小さくなって行った。それでいて、彼はこの始めての経験を、私に楽しんでもいるのだった。

車はやがて隅田川を渡り、川沿いに向島へと向った。吾妻橋を通り過ぎる時には、紋三は今朝の不愉快な一条を思い出していた。すると、又しても三千子の行方不明と例の奇怪な一寸法師の持っていた生々しい片腕とが、いまわしい聯想となって彼の頭に浮んだ。