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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
奇怪な人物と山野夫人とをのせた自動車は広い通り細い町を幾度か曲り曲りして、とある物さびしい町角に停った。出発する時から窓のカーテンがおろしてあったので、山野夫人は彼女がどこに運ばれるのか少しも見当がつかなかった。たびたび行先を尋ねたけれど、男はニヤニヤ笑うばかりで少しも答えなかった。
「サア、来ました」
自動車が停ると、男は夫人をうながして車を降りた。彼は出発以前に比べると、人が違った様に変にむっつりしていた。
夫人は車を降りた時、町に見覚えはないかと思って、さびしい往来を見廻したけれど、まるで知らない所だった。余り長く走った様にも思わなかったのに、その辺の様子はどっか非常に遠い田舎町の感じを与えた。
男はステッキを力に、足を引きずる様にして、存外早く歩いた。彼は物もいわず、うしろを振りむきさえしなかったけれど、夫人はそのあとについて行く外はなかった。それから又細い通りを幾度も曲って、三町ばかりも歩くと、おそろいの小さな門のついた、官吏の住宅とでもいった感じの借家が、ずっと軒を並べている町へ出た。不思議な男は、その内の一軒の門をくぐって、門からすぐの所にあるガラス張りの格子戸を開けた。