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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
今にも飛びかかって来るかと思ったのに、男は不思議と鳴りをひそめていた。暫くの間は部屋の向うの隅から、何かカタカタいう物音に混って、彼の荒い息づかいが聞えて来るばかりだった。
「不意に電気を消したりしてびっくりするじゃありませんか。早くつけて下さい。でないと、私帰りますよ」
百合枝は強いて何気ない声で、併しかなり力強くいい放った。
「帰れるものなら、帰ってごらんなさい。そんな強がりをいったって駄目だ。あなたはどうしたって帰ることは出来ないんだ。電気を消したのはね、あなたが怖がるといけないからだよ」
そして、ゾッとする様な含み笑いが、暗黒の中から響いて来た。
「あなたは忘れているだろうが、始めて山野の内で逢ったのはもう十年も昔のことだ。その時分あなたはまだ肩上げをした無邪気な娘さんだった。あなたはよく先の奥さんの所へ遊びに来た。山野の邸が西片町にあった時代だ。ね、思い出すだろう。私はその頃からちょくちょく山野の邸へ出入りする様になった。というのは一つはあなたの顔が見たかったからだ。だが、そんなことは気振りにも見せなんだ。己は人並の恋なぞ出来る身体ではなかったのだ。