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いっぽんのはな

一本の花

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,709 字 · 55 页

青空文庫

でも、まあすんだも同然」

「一月ずつ繰り越して暮すようなもんだな、あなたなんぞは……」

彼等は、大通りから、右へ一条細道のある角で、どっちからともなく立ち止った。

「どうなさるの」

大平は、その通りをずっと墓地を抜けた処に、年とった雇女と暮しているのであった。

「幸子女史はどうなんです、家ですか」

「家よ、きっと」

「ちょっと敬意を表して行くか」

向いは桃畑で、街燈の光が剪定棚の竹や、下の土を森と照し出している。同じような生垣の小体な門が二つ並んでいる右の方を、朝子は開けた。高く鈴の音がした。磨硝子の格子の中でそれと同時にぱっと電燈がついた。

「かえって来たらしいよ」

女中に云う幸子の声がした。

上り口へ出て来た幸子は大平を見て、

「ほう、一緒?」

と云った。大平は帽子の縁へ軽く手をかけた。

「相変らず元気だな」

「悄気るわけもないもん」

「はっはっは」

大平は、神経質らしい顔つきに似ず、闊達に笑った。

「いやに理詰めだね」

朝子は、赤インクでよごれた手が気持わるいので、先に内に入った。

「上らないの?」

「ちょっと尊顔を拝するだけのつもりだったんだが……」

「お上んなさい。