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いっぽんのはな

一本の花

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,709 字 · 55 页

青空文庫

――どうせ夕飯これからなんでしょう」

問答が朝子の手を洗っている小さい簀子の処まで聞え、遂に大平が靴を脱ぎ、入って来た。タオルで手を拭き拭き、朝子は縁側に立って、

「いやに世話をやかすのね」と笑った。

「本当さ。昔からの癖で一生なおらないと見える」

大平は、幸子と向い合わせに長火鉢のところへ腰を下しながら、

「まあ、お互に手に負えない従兄妹を持ったと諦めるんだね」と云った。

「――然し、実のところ、これから遙々帰って、お婆さんとさし向いで飯を食うのかと思うと足も渋る」

わざとぞんざいに、然し暖く叱るように幸子が云った。

「だから、早く奥さんをみつけなさいって云うんだのに」

大平はそれに答えず、幸子が心理学を教えている女子大学の噂など始めた。二年ばかり前、彼の妻は彼の許を去った。初めの愛人が、今は彼女と暮している模様だ。大平は三十六であった。

食後、三人はぴょんぴょんをして遊んだ。初め、大平はその遊びを知らず、二枚折の盤の上の文字を、

「何? ピヨン? ピヨン?」

と読んだ。

「ぴょん、ぴょんよ」

と朝子に云われた。

幸子が簡単にルールを説明すると、

「そんならダイアモンドじゃあないか」