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いっぽんのぎんのはり

一本の銀の針

小川 未明

「少年倶楽部」1927(昭和2)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,687 字 · 10 页

青空文庫

そのうちに、日が暮れてしまった。

夜になっても、風は、静まりませんでした。波は、はやく船を沈めてしまわなければならぬと、四方から打ち寄せてきました。若者は、おじいさんのことを思い、また妹のことを思い出しました。

おじいさんの造ってくださった帆は、この風にも裂けませんでした。若者は、どこへなりと風の吹く方向へ押し流されてゆこうと、運命に身を委せてしまったのです。

あたかも、暗い雲を破って月が照らしました。月は、海の上をくまなく、ほんのりと明るくしました。そのとき、白い帆の端で、異様な輝きを放ったものがあります。船の中で頭を抱えていた若者には、それがわからなかったけれど、目ざとい風はすぐにそれを見つけました。妹が、兄さんの無事を祈るために、盲目のおばあさんからもらった銀の針を、だれも気のつかないところに刺しておいた、それに月が映ったのであります。

風は、その光を見てびっくりしました。その光の中に、あの怖ろしい盲目のおばあさんが、じっとしてすわっていたからでした。

盲目で、白髪のおばあさんは、北極の氷の上にいるおばあさんです。波でも、風でも、おばあさんの住んでいる国へいったものは、おばあさんの機嫌しだいで、すぐにも息の音を止められたり、また凍らせられたりするのでした。