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いっせんどうか
一銭銅貨
小川 未明
「週刊朝日 23巻17号」1933(昭和8)年4月2日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,098 字 · 5 页
大事に取り扱われればうれしいし、粗末にとりあつかわれればいい気持ちはいたしません。ひとつ身にしみて、忘れられないお話をいたしましょうか。」と、一銭銅貨が、いいました。
「ああ、きかして、おくれ。」と、英ちゃんは、答えました。
まだ、早い春の寒い夜のことでありました。その晩も、だんだんふけて、もう街は戸をしめて、電車に乗っている人も少なかったのです。
ゴウ、ガタン、ゴウ、ガタンといって、電車は走っていました。ある停留所で、ちょっととまるとみすぼらしい、腰の曲がったおじいさんが、つえをついて、電車にのりました。
「このおじいさんは、こんなふうをして、いま時分どこへいくのだろう。」と、乗っていた人たちは心のうちで思ったのです。
が、おじいさんが、腰をかけるのを見てから、車掌さんは、チン、チンとベルを鳴らしました。そして、おじいさんの前へきて、
「おじいさん、どこまでですか。」と、切符を切ろうとしました。
おじいさんは、がまぐちを振って、ありたけの銭を車掌にやりました。車掌は、よくかんじょうしてみました。
「おじいさん、一銭足りませんよ。」といいました。
「私は、あると思ったが、まけてはくださるまいのう。