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さんにんのそうせいじ

三人の双生児

海野 十三

「新青年」1934(昭和9)年9、10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,806 字 · 87 页

青空文庫

「そりゃ分らん……赤沢にでも聞いてみるのじゃナ」

父は苦い顔をして応えた。

「ねえ、お父さま。もとのお家へ帰りましょうよ、ねえ」

「もとのお家? なぜそんなことを云うのだ」

と、父は俄かに声を荒らげていうのであった。

「もとの土地へ帰っても、もうお家などは無いのじゃ。あんな面白くもないところへ帰ってどうするんか。この船の上がいいじゃないか。じっとして、どんな賑かな港へでもゆける」

父は故郷を呪ってやまなかった。

「お父さま。あたしたちの故郷は、何というところなの」

「故郷のところかい。おお、お前は小さかったから、よく知らんのじゃなア。イヤ知らなけりゃ知らんでいる方がお前のためじゃ。そんなものは聞かんがいい、聞かんがいい」

と云って、父は妾が何といって頼んでも、故郷の地名を教えなかった。だから妾は、幼い日の故郷の印象を脳裏にかすかに刻んでいるだけで、あの夢幻的な舞台がこの日本国中のどこにあるのやら知らないのであった。

いまにして思えば、あのとき何とかして故郷の方角でも父から訊きだして置くのであったと、残念でたまらない。なぜなら、その後父は不図心変りがして船を下り、妾を連れて諸所贅沢な流浪を始めたが、妾が十歳の秋に、この東京に滞在していたとき、とうとう卒中のために瞬間にコロリと死んでしまった。