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さんじゅうろくねんまえ

三十六年前

森下 雨村

「別冊宝石 四十二号」岩谷書店、1954(昭和29)年11月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,864 字 · 6 页

青空文庫

どうして、こんな古い内輪話をするかといえば、それが「二銭銅貨」がぼくのひき出しに、しばらく日の目も見ずに押しこめられていたことの次第の説明になるからである。相原君とたった二人で、毎日転手古舞いをやっている。依頼原稿は首を長くして待ちわびているが、投書や懸賞応募の原稿などには目をくれる暇はない。机の上に山積するそうした原稿は、片っぱしから整理函のなかに、あるいは机のひき出しに投げこんで、一応仕事が片づくまでは打棄てておくしかない。

江戸川君から一度催促の手紙がきた時にも、それが創作であるとは承知しながら、読まない先から、どうせ大したものではあるまいと高をくくって、それでも一応拝見の上、適当な雑誌に紹介すると返事だけは出した。当時、博文館に「新趣味」という怪奇探偵趣味をねらった雑誌があり、それもいささか「新青年」を追随した傾向のいき方で、創作ものものせていたので、なんだったらその方へ紹介しようという肚だったと思う。というのも、自分の方は純然たる探偵小説、それも創作方面にはまだまだ望みがないから、海外作品の紹介で突きすすんでいこうという方針だったからで、いわば「新趣味」