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さんじゅうねんごのせかい

三十年後の世界

海野 十三

「少年読売」1948(昭和23)年3~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,140 字 · 137 页

青空文庫

「誰が競争するの」

「誰って、つまりアブラ虫ですよ」

「アブラ虫だって? アブラ虫かい」

正吉は、おどろき、そしてあきれた。

キンちゃんの方は、どうですといいたげに、にやにや笑って、

「食堂に出てくるアブラ虫を、大切にして飼っておいたのです。かなり大きいのがいますよ。横綱というのは、一番大きくて、腹が出っぱっているのです。そのかわり、競走させると案外おそいのでねえ」

「なんだって、アブラ虫なんか飼っておいたの」

「たいくつだからですよ。アブラ虫だって、生きてうごいていれば友だちのかわりになりますからねえ。それにバターをなめさせたり、ジャガイモをくわせたりしていると、アブラ虫もだんだんわしになついてくるんでね。そりゃとてもかわいいですよ」

キンちゃんは目を細くして笑う。

そのキンちゃんが、ぜひコック部屋へ見にきてくれというので、正吉はそのあとについてのぞきにいった。

すると、部屋の外まで、人間のお尻がたくさんはみ出している。みんなアブラ虫競走に賭けて夢中になっている連中だった。

キンちゃんのかわりに、散髪夫の虎さんというのが、ちゃんとアブラ虫を指揮して競走をやらせていた。