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さんがつのだいよんにちよう

三月の第四日曜

宮本 百合子

「日本評論」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,826 字 · 42 页

青空文庫

「何なのさ、何がそんなにおかしいのよ」

「だアって」

「気持がわるいわよ、云ってよ」

「御免ね、何だか急におかしくって」

いつか、綾子が鉛筆を床へ落したことがあった。それがころがって隣の弓子の足許へ行った。弓子は勿論ひろってやらない。そこへ伍長の飛田がまわって来て、

「鉛筆がおちてるぞ」

と云った。弓子も綾子もだまりこくって製図板にふさっていると、飛田が、ポマードできっちりとわけている頭をかがめて、それをひろった。

「支給品を粗末に扱っちゃいけない、物資愛護、物資愛護」

そう云いながら鉛筆をあげて、そのあたりを見まわしたとき、今まで知らんふりだった綾子が、

「アラ!」

ルビーの指環をはめた左手をすこし反すようにして出して、

「すみません」

その鉛筆をうけとった。

弓子が人をばかにしていると後でぷりぷりおこった。サイが困ったようにうけ答えしていたら、わきで爪をこすっていたとよ子が、

「ふふふ、サイちゃんばっかりいい迷惑だわね。何故あんなに云うか知ってる?」

サイの方は見ないでなお作業服の袖で爪をこすりながら気をひくようにきいた。

「さあ」

「弓子さん、自分だって伍長がすきなのよ。