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さんがつのだいよんにちよう

三月の第四日曜

宮本 百合子

「日本評論」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,826 字 · 42 页

青空文庫

「どこの子だい! 乱暴するんなら、表の空地でやっとくれ」

婆さんが、便所の中から怒鳴りつけている。びっくりしたので動悸がうって、サイは蒲団から苦しそうに上気せた顔を出した。すっかり眼がさめてしまった。眼がさめながらまだ痺れたように睡たくて、背なかが蒲団から持ち上げられないほど懈い。こういうときがサイにいちばん辛く悲しかった。働くことはかまわないのだけれど、せめて夜勤のあとぐらいたっぷり食べて、存分寝てみたい。その気持が自分でも名状出来ない思いとなって、若い体に脈うって涙がこぼれた。

冬のころ、このことからサイは今の勤めをやめようかと思ったことがあった。先にいた勤人の家庭では食物と睡る時間はたっぷりあった。給金が十五円になれば、その方がいいぐらいであった。丁度忙しくなりかかった時で、サイがそれやこれやで余り浮かない顔をしていたら、飛田が目敏く、見とがめて、

「サイさん、どうした、この頃元気がないようだぜ」

もしいやなら、このなかでほかの仕事にまわしてやってもいいと云った。サイは顔を赧らめた。

「私この仕事がいやなんじゃないんです」

ここをやめても、すぐによそへ勤めることは許されないという条件もあるのであった。