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さぶろうじい
三郎爺
宮本 百合子
「東京日日新聞」1918(大正7)1月5日~17日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 页
まるで社殿の、「あまいぬ、こまいぬ」のように床の傍から片時も離れずに一緒に笑い、一緒に憤りしながら、三郎爺は旦那様の顔に現われて来る不吉な相貌をどうすることもできなかった。
助からない病が、だんだん顔へ出て来るのが、年の功で分るのだそうだ。
そして、とうとう、まだそう年寄りとはいわれない六十の春に、三郎爺の唯一の愛護者であった山沢さんは、逝ってしまったのである。
彼は、もちろん非常に悲しかった。大層泣きたかった。両方の肩が、げっそりするほど、力が落ちた。けれども、彼の脣からは、ただ、
「これも世の中だ、仕方があんめえ!」
という言葉が、一句洩れたきり、彼は悲しいとも、がっかりしたとも、云わなかったのに、皆はびっくりしたり、失望したりした。
誰が、言ったというのではないけれど、人々は山沢さんの死と同時に、悲歎に沈む彼を待ち望んでいた。
何だかきっと、そうに違いないという心持がしていた。
けれども、彼は、皆が自分にそんな気持を持っているのを知ると憤然とした。
彼は、亡くなった旦那様以外の一人にも、自分を憐れむことは許さなかった。命令することは許さなかった。