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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
「中止ッ!」
――二分と話せない。出るもの、出るもの中止を喰った。
――阿部も伴も演説が上手くなっていた。聴衆は阿部や伴のゴツゴツした一言一言に底から揺り動かされているではないか! 健は睡尻にジリジリと涙がせまってくる。いけない、と思って眼を見張ると、会場が海底ででもあるようにボヤけてしまう。
伴の女房も演壇に立った。――日焼けした、ひッつめの百姓の女が壇に上ってくると、もうそれだけで拍手が割れるように起った。そしてすぐ抑えられたように静まった。――聴衆は最初の一言を聞き落すまいとしている。
伴の女房は興奮から泣き出していた。――泣き声を出すまいとして、抑え抑えて云う言葉が皆の胸をえぐった。――あち、こちで鼻をかんでいる。
「……これでも私達の云うことは無理でしょうか?――然し岸野さんは畜生よりも劣ると云われるのです。」
拍手が「アンコール」を呼ぶように、何時迄も続いた。誰か何か声を張りあげていた。
「こんな事はない!」
組合の人が健の肩をたたいて、すぐ又走って行った。――「こんな事はない!」
次に出た労働組合の武藤は「三言」しゃべった。「中止!」そして直ぐ「検束!」