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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
警官が長靴をドカッドカッとさせて、演壇に駆け上った。素早く武藤は演壇を楯に向い合うと、組合員が総立ちになっている中へ飛びこんでしまった。人の渦がそこでもみ合った。聴衆も総立ちになった。――武藤は見えなくなっていた。
「解散! 解散※(感嘆符二つ、1-8-75)」――高等主任が甲高く叫んだ。
聴衆の雪崩は一度に入口へ押し縮まって行った。健がもまれながら外へ出たとき、武藤は七、八人の警官に抑えられて、橇(検束用)へ芋俵のように仰向けに倒され、そのままグルグルと細引で、俵掛けのように橇にしばりつけられてしまっていた。仰向けのまま、巡査に罵声を投げつけている。――見ている間に橇が引かれて行ってしまった。百人位一固まりになった労働者が「武藤奪還」のために警官達と競合いながら、橇の後を追った。
会場の前には、入れなかった群衆がまだ立っていた。それと出てきたものとが一緒になると、喊声をあげた。そして、道幅だけの真黒い流れになって――警察署の方へ皆が歩き出した。組合のものが、その流れの「音頭」をとっていることを健は知った。
健は人を後から押し分け、――よろめき、打つかり、前へ、前へと突き進んだ。