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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

――管理人の家の炊事煙突が、めずらしくムクムク煙をはいていた。裏口から襷をかけて、太い腕をまくり出した女達がザルを抱えたり、葱をもったり忙がしく出入りした。

令嬢は、軽い頭痛を覚えていた。――汽車の窓から見たり、色々な小説を読んだりして、何か牧歌的な、うっとりするような甘い、美しさで想像していたチョコレート色の藁屋根の百姓家! それが然しどうだろう。令嬢は二三軒小屋をのぞいてみた。――真暗な家の中からは、馬糞や藁の腐った匂いがムッと来た。暗がりから、ワア――ンと飛び上った金蠅の群が、いきなり令嬢の顔に豆粒のように、打ツかった。令嬢は「アッ!」と声をたてた。腹だけが大きくふくれて、眼のギョロッとした子供が、炉の中の灰を手づかみにして、口へ持って行っていた。上り端に喰いかけの茶碗と、塩鱒の残っている皿が置きッ放しになって居り、それに蠅が黒々と集っていた。隅ッこに、そのままに積み重ねてある夜具蒲団の上から、鶏がコクッ、コクッと四囲を見廻わしながら下りて来た。……管理人のところへ帰ってから、濡らしたハンカチを額にあて、令嬢はしばらく横になった。

夜になると、「ランプ」