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ふざいじぬし

不在地主

小林 多喜二

一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页

青空文庫

――山の方の百姓はそんな事は知るもんでない。

次の年、どの百姓も皆青豌豆、青豌豆と青豌豆を作ったものだ。そして一年の丹精をして、大成金を夢見て、さて秋が来たときどうだ! ガラ落ち!――和蘭が大豊作だと云う。然し本当はそれも七分の嘘。落すにいいだけ落して、安く安く買い集めたのは大問屋だった。そのカラクリは仲々分るものでない。――首を縊った百姓、夜逃げした百姓が何人あの年いたか。都会が凡ての支配権を握っているのだ。

こういう世界へ百姓が首をつん出して、うまく行く筈がない。山の中にいて、市場の景況もあったものでない。工場などでは、昨日原料を仕入れば、明日にはもう売り出せるように品物が出来上る。それが一年中切れ間もなしに続けられるし、売れ工合によっては、自由に出来高の加減もその日その日のうちに出来る。ところが百姓はどうだ。――原料を一回仕入れて、その第一回目の品物が出来上る迄に一年! この融通のきかなさ! これだけでも分る。

工場に入って驚いたけれども「機械」だ。仮りに一人の男が毎日毎晩働いて、一年もかかる位の分量の仕事を一日位でしてしまう。――そんな機械でばかり工場が出来上っている。