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ふしょうのあに

不肖の兄

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页

青空文庫

「苦しそうですねえ。」

「ええ、そりゃあ苦しいんですって。喇叭管がひきつけるから、腰と下腹がちぎれて取れそうだって云いますよ。お産の時と同じだそうですもの。」

「へえー、そうですかねえ。」

僕は一人で茶をいれて飲んでいた。

「それじゃあ、痙攣かい。」

「ええ。」

「では、唐辛子をはるといいんだよ。」

「あら、いやーね、そりゃあ胃痙攣のことよ。」

照代はそれでも学者だった。先生は蒟蒻で温めるように云ったけれど、氷で冷しきった方がいい、それも人によるんだけれど、などと云っていた。

僕はいい加減のところで立上りかけた。

「じゃあお大事に……。僕は帰るから。」

「いやよ。駄目……。待ってるのよ。」

ねえーと云った調子で、鏡の横から、出来るだけ大きく見開いた露わな眼で、彼女は僕の眼に見入ってきた。それに自然とうなずいて、僕はまた腰を据えた。

美代子の痙攣は度々起った。照代はその度に立っていった。僕はそこの長火鉢と箪笥との間に、メリンスの座布団を二枚並べて小さく寝そべった。ばあさんが掻巻を着せてくれた。そして、木目の飛出した天井板や、ごてごて飾り立てられた真赤に見える神棚や、お師匠さんの手に渡ってる照代の長い髪や、どこからかの電話や、美代子の痙攣や、赤っぽい電燈の光や、そんなものを断片的に意識しながら、出来るだけ縮こまってると、いつのまにか