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ふしょうのあに

不肖の兄

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页

青空文庫

敏子

なぜ泣くんだ。何も泣くことはありゃしない。嬉しいのか、悲しいのか……いや兎に角、こんな時に泣く奴があるものか。

僕も悪かった。がそりゃあ、皆が云う通りの不肖の兄、そういう僕なんだから、おかしな理屈だが、まあ名前に免じて許してくれよ。

僕は知らなかったんだ、お前と浜地との間を……あの翌朝まで。薄々は分ってたようにも後では思えるが、全く、翌朝初めて母から聞いてはっきり分ったのだった。

可笑しな朝だったよ。

さすがに僕だって、前夜のことがぼんやり気にかかって、ぼんやりしてるだけにちょっと弱らされた。それで、十一時頃まで寝床の中に愚図ついていて、起き上るとすぐに、酒を飲むと云い出してみた。

「え、お酒。」

言葉と一緒に息をつめて、さも呆れ返ったように母が見つめてきたので、僕は一寸首をすくめたが、すぐに眉根をしかめてごまかしてやった。

「ええ。何だか頭痛がするようだから、少しでいいんです。一本……つねや、」と僕は女中を呼んだ、「つねや、大急ぎ、一本お燗をするんだよ。」

「まあ、お前はほんとに……。昨晩あれほど飲んでおいて、その上まだ飲むつもりなんですか。