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せそう
世相
織田 作之助
「人間」1946(昭和21)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页
もともと潔癖性の女だったが、宗教に凝り出してからは、ますますそれがひどくなって食事の前に箸の先を五分間も見つめていることがある。一日に何十回も手を洗う。しまいには半時間も掛って洗っているようになり、洗って居間へ戻る途中廊下で人にすれ違うと、また引き返して行って洗い直すのである。
おまけに結婚後十日目には、頭髪がすっかり抜けてしまい、つるつるの頭になったのでカツラを被った。時々人のいない所でカツラを取って何時間も掛って埃を払っている――そんな姿を見ると、つくづく嫌気がさして来たある夜、どう魔がさしたのかポン引に誘われて一夜女を買った。ところが、その女はそんな所の女とは思えないくらい美人で、金で売り乍ら自分から燃えて行く肌の熱さは天辰の主人をびっくりさせた。この女が明日は自分以外の男を客に取るのかと、得体の知れない激しい嫉妬が天辰の主人をおろおろさせてしまった。すぐ金を出して、女を天下茶屋のアパートに囲った。一月の間魂が抜けたように毎夜通い、夜通し子供のように女のいいつけに応じている時だけが生き甲斐であったが、ある夜アパートに行くと、いつの間にどこへ引き越したのか、女はもうアパートにいなかった。