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ちゅうよう

中庸

坂口 安吾

「群像 第八巻第六号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,104 字 · 33 页

青空文庫

さすれば今回の事件の如きも、あるいは事前に防ぐことができたかも知れない。私はとりたてて能がないが、ただ一つ中庸を尊ぶことに於て人後に落ちないことが取柄ではないかと考えている。政治というものは技を要し策を要し、機にのぞみ変に応じて甚だ複雑困難なものの如くであるが、一面中庸を失わなければ大過なきを得るものの如くである。その意味に於ては、無為無能の村長たる私も多少の存在理由を認めうるかに考えている次第である。しかるに村長の意見を徴することなく村会の決議を実行せられては、私としても多少の取柄を発揮する余地がなく、村民に対しても合せる顔がない。以後かかることのなきよう、特に皆さんの御注意をうながしたいと思う」

すると根作が立って云った。

「俺も村長に一言注意しておきたいが、そういつまでも俺は無能の村長であるとおさまってもらってはこまる。御承知の如くに村の財政は予算難であるが、予算が足りなければ根作の馬を売って不足を補えばよいなぞとは、無能どころか、ワンマン、暴君である。無能を売り物にして難局に当ることを避けるのは卑怯だが、どうだ。俺が一つやってやろうという気をそろそろ起してはどうだ。