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ここのつのかぎ
九つの鍵
野村 胡堂
「少年時代」1949(昭和24)年1月~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,349 字 · 42 页
「爺や、爺や」
三郎は飛びつくように振り動かしましたが、麻酔剤を呑まされたのか、急病を起したのか、容易のことでは覚めそうもありません。
三郎はさすがに驚きましたが、自分で自分の心を鎮めながら、ともかくも家の者に急を告げるつもりで、幸い空け放ったままの玄関から怒鳴りました。
「だれかいる? 爺やが大変だよ」
兄妹ふたりのほかは、同居している従弟の植野誠一という、三郎よりは一つ歳下の十九の青年と、あとは奉公人ばかり、もとより遠慮のある家ではありませんが、家の中は粛として、三郎の声に応ずる者もありません。
「しようがないなア、玄関を空けッ放したまま、まだ皆んな寝ているのかえ」
主人らしいこごとを言いながら、三郎は奥へはいって行きました。が、玄関の隣りの応接間もその奥の書生部屋も、つづく食堂も、部屋中の物を引っくり返して、花瓶や皿小鉢までめちゃめちゃに叩き割り、床をはがし、天井を突き破り、壁紙を引きはがし、テーブルまでも引っくり返した上に、あらゆるイスの皮を切り破って、中のスプリングまで取り出し、クッションというクッションの縫目をほぐして、部屋一パイに羽毛を振りまくという実に徹底した荒らしようです。