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ここのつのかぎ

九つの鍵

野村 胡堂

「少年時代」1949(昭和24)年1月~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,349 字 · 42 页

青空文庫

「そいつは気の毒だね」

「ぼくは小さくて何んにも知らなかったが、姉さんはこのビルで育ったから、脱け道ぐらい知ってるかも知れないよ、――待ってくれたまえ」

少年はトタン小屋の中へはいって、何やら姉と話しておりましたが、やがて十七八の少女が懐中電灯を持って、弟の少年と一緒に出て来ました。

「ぼくの姉さんだよ、波野幸子って言うんだ、ぼくはその弟の馬吉さ」

忙しい中にも、馬吉少年は名乗りをあげます。

「ぼくは狩屋三郎――ツイこの先きに住んでいるんです」

「え、知っていますわ、ピアノのうまいお妹さんがおありでしょう、――お宅の前を通る度に、生け垣の外に立って聴くんですもの」

元気そうな丸顔、無邪気だが聡明そうな眼、身なりのそまつなことは、弟の馬吉少年と負けず劣らずですが、そのかわいらしさもまた抜群でした。

「妹の――そのピアノをひく妹の愛子が、ビルの屋上に釣り上げられたんです、何んとかして助けなきゃ」

「そうですってね、悪い人たちですよ、――裏の方へ廻って見ましょう」

少女――幸子は、狩屋三郎を案内して、ビルの裏に廻りました。焼けトタンと枯れた雑草と、石と煉瓦と、焼け残りの材木の山で、それは足の踏みどもありませんが、少女幸子は巧みにその間を縫って、裏口のそばの、蓋になった地下道にもぐり込むと、スティームの釜の燃料などを運び入れる