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くがつのあるひ

九月の或る日

宮本 百合子

「時事新報」1926(大正15)年9月21、22、25、26日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,130 字 · 11 页

青空文庫

「え? 利殖の本も買ふ気になれり?」

ははは! それは傑作だ、と私共は涙の出る程大笑いをした。

「皮と身と離るゝ体我もてば利殖の本も買ふ気になれり」

うまかったな、網野さんはなかなかうまい、と百花園のお成座敷の椽でお茶を飲みつつ更に先夜の笑いを新にしたのだが、その時網野さんのユーモアということが、作品にもつづいて私の頭に浮んで来た。

「皮と身と離るゝ体我持てば利殖の本も買ふ気になれり」

思わず――その体の持主が私共だということ、それに利殖の本を結びつけた機智の面白さ――笑ってしまう滑稽さがあるが、このユーモアには何処やら淋しさがこもっているようではないか。小説集『光子』の中に集められている短篇でよいと思ったのが沢山あり、そのどれもが――例えば「棕」「質問」「時代」「巡査」など皆、その一種のユーモアによって印象に残されている。そのユーモアの網野さんが生粋の都会人であることや、細かい神経を持っていることや、一抹の淋しさを漂わした感情の所有者であることなどが直に窺われる。都会人らしい――それも町家の――心持に教養の加った気分で生活している間に、ひょい、ひょいと人生の明暗に触れる。