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くだん

九段

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第二〇号」1951(昭和26)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,870 字 · 20 页

青空文庫

勝てばいいのだ。勝負の世界はハッキリしていて、負けた者は負け、これをくつがえす何物もない。勝負は水ものだと云えば、昇降段戦名人戦も水もの、それを云えばキリがない。負けた者は負けたのである。

そこでトーナメントに優勝し、最初の九段になったのが大山であった。

この大山という勝負師はまことに珍しい鋼鉄性の人間である。誰しもスランプというのがある。木村にはスランプらしいものはなかったが、塚田にうち負かされて名人位を落ちた直後の一年はサンタンたる不成績であった。木村ほどの豪の者でもそうだ。塚田は名人位を失ってのち、いまだに混迷状態から脱け出せない。碁の藤沢は九段を得てのち甚しく不成績であるし、木谷も長いスランプがうちつづいている。

すべてスランプというものは、技術上のことではなくて、精神の不安定がもたらすのであろうが、大山にはそれがないように見えるのである。

塚田が名人位に就いたとき、最初の挑戦者となったのは若冠二十五の大山であった。彼はB級から一躍とびあがってA級の上位三者をなぎ倒して挑戦者になったが、その落付きと年間のめざましい戦績から、世間の大半は彼の勝利、大山次期名人を疑わなかったようである。