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ちちをさす

乳を刺す

邦枝 完二

黒門町伝七捕物帳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,474 字 · 35 页

青空文庫

「おい。お前達は、ゆうべ寝てから、常吉が部屋から外へ出て行ったのに、気がついていただろう」

「………」

松三郎が困って民吉を見ると、民吉はにらむようにそれを見返したが、やがて留五郎をまぶしそうに仰いだ。

「松どんは、よく眠っていたらしいんですが、あたしは、常どんに足をけっ飛ばされて、眼が覚めました。痛えなアといいますと、暗くって見えないんだから、勘弁しなと云って、自分の床へ這入ったようでございました」

「そうか。それじゃア夜半に、外へ出たことは間違えねえな? どうだ。今朝常吉に、何か変わった様子はなかったか」

「あ、そうだ」

松三郎が、急に声を大きくした。

「さい角や干し肝を削る、薄刃の小刀を、磨いでくれと頼まれましてあたしが磨ぎました」

「なに、刃物?……」

留五郎の顔には、急に晴晴した微笑が浮かんだ。

「お春さん。お前の推量は、当たってるぜ。直ぐに常吉を呼んで来ねえ」

外された閂

「常吉。おめえいま、裏の方へ行ってたそうだな。いよいよ、逃げ出すつもりだったに違えなかろうが、そうは問屋でおろさねえぜ」

「いえ。なんで左様なことを、いたしましょう。それは……」