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ちぶさ

乳房

宮本 百合子

「中央公論」1935(昭和10)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,932 字 · 56 页

青空文庫

そう云ったころから、場内は目に見えて緊張して来た。

「支部長の提案に、質問意見があったら出して下さい」

「…………」

「議長!」

この時、ひろ子の坐っている壁ぎわの場所からは斜向いに当るところで、一人の若い従業員が肱を突きのばすような工合に手を挙げた。

「第三班の決議を発表したいと思います」

「やって下さい」

「われわれ第三班は、今朝改めて班会を持ち、要求は当然拒絶されるであろうという見とおしに立って、即刻ストを決議し、闘争委員を選出しました」

「…………」

微妙なざわめきが場内にひろがりはじめた。百二十七名の馘首反対を絶対に妥協しないこと。要求がきかれなければストライキ準備に入れという指令は本部から既に数日前発せられているのだ。山岸は力のつよい小波のように動きはじめた雰囲気を強いて無視し、わざとらしく燻たそうに眉根を顰めて丸っこい手ですったマッチから煙草に火をつけている。

「ちょいと……そのウ、質問なんだが――」

不決断に引っぱって、のろくさと一つの声が沈黙を破った。

「その第三班の決議ってのは――どういうんかね。俺にゃちょいと分らないんだが――全線立たなくても、ここだけで行こうってのかね」