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ちぶさ

乳房

宮本 百合子

「中央公論」1935(昭和10)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,932 字 · 56 页

青空文庫

――

四

数日経ったある午後のことであった。赤坊二人が二階で昼寝している。その間にと、ひろ子が上り端でおしめを畳んでいると、スカートへ下駄をつっかけたタミノが遠くからそれとわかる足音を立てながら外から戻って来た。土管屋と共同ポンプのわきまで来ると、

「ちょっと、どうしたのさァあの看板、ひっくり返ってるじゃないの」

と大きな声を出した。庭先に遊んでいた二郎が、

「飯田さん、なんなの? ネ、何んだってば、なんのカンバンが、しっくりかえったのかい」

五つの袖子や秀子、よちよち歩きの源までタミノのまわりにたかった。

「橋のわきに、白い三角のものが立ってたろう? あれが溝へおっこちてるのよ」

子供たちぐるみ上り端の前に立った。ひろ子は、怪訝そうに、

「だって――あれそんなはじっこに立ててありゃしなかったじゃないの」

と云いながら、自分も土間へおりた。蛇窪無産者託児所と白地へ黒ペンキで書いた標識は、土管の積ねてある側、溝からは一間以上も引こんだ場所に、通行人の注意をひくように往来へ向って立ててあったはずである。

「ホラ!――ね? 誰がやったんだろう、こんなわるさ」