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かんぱい
乾杯
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,788 字 · 18 页
そして次第に、山川家に寝泊りすることが多くなり、殊に、正吉の病気から死去から仏事へかけては、山川家の一員のようになって働きました。そういう状態も、もういずれかへ決定すべき時期になったのでありました。つまり、彼女は信一と共に鎌倉に住むか、山川家に住むか、どちらかにすべき場合でありました。
ところで、二人の情愛の問題につきましては、山川正太郎が多年守り通してきた独身主義と、加納春子の子の信一と、両方を互に尊重して、結婚は最初から問題でありませんでした。それを前提として考えますれば、彼女が鎌倉に住むことは、或は情愛を通じ合う途があるかも知れぬことになりますし、彼女が信一と共に公然と山川家に住むことは、情愛を封殺することになるのでした。それが、彼等の人間としての道義でありました。この点も、暗黙の間に理解されていました。
山川正太郎の返答を聞いて、加納春子はぽっと頬に赤みをさしました。そしてじっと宙に眼を据えました。
彼女の頬の赤みが引いてしまう頃、山川正太郎は涙ぐんで感傷の底に沈んでゆきました。その底から泳ぎ上ろうとするかのように彼は言いました。
「この決心は、いけないでしょうか。