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よかん

予感

山川 方夫

「現代挿花」1961(昭和36)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,904 字 · 4 页

青空文庫

深い谿をへだてた小さな山の斜面に、ぽつぽつ新緑が目立ちはじめ、その山肌に明暗の模様をつくりながら、いくつかの雲の落す影が動いている。遠く近く、早春の褐色の山の起伏がつらなり、それと明るくみずみずしい真青な空との対照は、美しいといえば美しく、和やかといえば和やかな景色だったが、でも、彼はそれどころではなかった。

彼は、妻とならび、山腹を削りとった道をのぼってゆく、大型バスの座席に揺られていた。妻はキャラメルを頬ばり、幼いころのピクニックなんかの話をしている。その声が、なんだか水の中で聞いているような気がするのは、つまりそれほど標高のたかいところにきたせいなのだろうか。

「耳がいたいの? 弱むし」

「いや。ただボワーンとしてるだけさ」

彼は苦笑して答えた。だが、気がかりはそんなことではなかった。

彼は、自分に一種の予感の能力があるのを信じていた。当面の問題の吉凶が予知できるのである。それは、ふいに背すじにはしり下りる、しびれるような短い戦慄で彼に報じられる。その戦慄の微妙な差で、彼は、それが吉兆か凶兆かを区別するのである。

その警笛が、じつはさっきから背中で鳴りつづけているのだ。