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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「なんだ」

「寺島の地所のこと、してくださいましたか?」

「まだだ」

「――困るじゃありませんか」

伸子は、自分に向けられた母の視線を感じた。が夕刊から目を動かさなかった。両親の心持のもつれが、こういうところに話題をとらえて、しかも母の方から挑むようにもち出されたことは、伸子に思いがけなかった。

「あしたですよ、期限が」

寺島に、母の実家があった。祖母の死後、すっかり没落した多計代の実家は、銀行から宅地を差押えられかけていた。多計代は、明治初期の学者として著名だった父親の記念のために、その土地は人手にわたさず、佐々で買いとりたいと計画しているのであった。

「あなたったら、建築家のくせに、ちっとも事務的にてきぱきして下さらない――よく、それで事務所の用がすんでいらっしゃる」

「そんなにいそぐなら自分でやったらいいじゃないか」

多計代は、

「あなたは、寺島のこととなると、実に冷淡だ」

涙をうかべて、ふっくりと白粉のついている顎のところに泣くまえの梅ぼしをこしらえた。

「わたしに出来ることなら、はじめっからお願いなんか、しやしないじゃありませんか」

長椅子にあおむけに横になっている泰造は、あおむけのまま脚を高くくみあわせた。