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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
伸子が一緒に暮さないようになってから、もう何年か、泰造は毎朝一人で、箪笥の前で身仕度をととのえて事務所へ行くのがならわしになった。多計代は、良人や学校へゆく息子の朝食の時間におきて来ないことが多かったし、出勤の身じたくも、帰宅して来たときの着がえも、伸子が覚えてから滅多に手つだわないひとであった。泰造は年来、朝はこうして一人で仕度して出かけ、帰って来て冬ならばストーヴの前においてある和服に、今ごろなら衣紋竹につるしてある和服に一人でさっさときかえた。お嫁に来たとき、あんまりおばあさまの焼餅がひどくて、お躾けがよすぎたもんだからね。多計代は自分たち夫妻の習慣を、そういって笑った。
けれども、年とった夫婦である父と母とがあらそいをした今朝、父がやっぱり一人箪笥の前で身仕度をしているのは、いつもの通りでありすぎて伸子には気の毒に感じられた。伸子は箪笥の中についている小抽斗からハンカチーフを出して、上着のポケットに入れたりした。
「お父様、よくおやすみになった?」
「ねたとも、例によってたちまちですよ」
父の顔色は、ほんとに、昨夜もいつもどおり枕へ頭を置くやいなや、すぐいびきになったと告げている。