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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

つや子はおとなしくて可愛い娘というよりは、神経質でその癖おしきったところのある生れつきのために、同じ成績でもマ・メール(お母様)とよばれている尼校長から御褒美をもらったりすることの少い女の子の部類に属した。つや子は、その学校に通わされることをだんだんいやがるようになって来ているのであった。伸子は、日曜にでもゆくということにして電話をきった。

桜並木の道を戻って来ると、むこうから素子がぶらぶら来た。

「――出かけるの?」

「いやに手間がかかるから来てみたのさ……どうだって?」

多計代のからだ工合をきき合わせるというわけで、伸子は酒屋まで電話をかけに来ていたのであった。

「けさ、前崎へみんなで行っちまったんだって……」

「結構じゃありませんか、そのくらいなら」

そして、素子は皮肉に、

「たまには、われわれも、御招待にあずかりたいもんだね」

といった。

「…………」

「ぶこちゃんはたまさかいったことがあるんだろう?」

「二三遍は行ったかしら……」

伸子が前崎へ行ったのはまだ家が出来たばかりで、門も垣根もない時分のことであった。昔の東海道に沿った松並木の名残りが生えている崖にふみつけられた細道をのぼると草がぼうぼうしげった平地に出た。