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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
そこに、ぽつりと一軒、瀟洒なスレート屋根の佐々の家が建っていた。両親と伸子と手つだいのものは、一列になって草ぼうぼうの間をかきわけて進み、地境のしるしにめぐらされている竹垣の木戸もない間から入った。泰造が、ポケットの鍵束の中から、親鍵を出して、入口の堅牢なドアをあけた。そのときは、水をくみあげるポンプの電力モーターの馬力が足りないで、逗留している三日間、伸子と手つだい女とが草っ原を通って下りて行って街道の漁師の家から井戸水をもらった。
箱根の連山が見晴らせるその家のヴェランダの椅子で、多計代は、そんな役に立たないモーターをすえつけさせたことをおこりつづけた。癇癪をおこしながら、泰造は自分でモーター室へ下りて行って、調べたりした。モーター室の上は、天井のコンクリートを利用して、快適な屋根のない亭になっていた。入口のドアの外に靴の泥おとしが鋳ものの鉄製で、面白いスコッチ・テリアの形をしていた。半地下の外壁に噴水のしかけがあったりした。あっちこっちに泰造のそういう趣味がちらばっている。それは伸子を興がらした。けれども、モーターのことで居る間じゅう母がおこりつづけていることは馬鹿らしく思えた。