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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

それから月日がとんで、無産階級、プロレタリアという声がきこえはじめた。伸子には、今の社会で貧しい人たち、労働者を無産階級、プロレタリアということはわかったが、たとえばいま帰って行った人たちのように、金もちでもない自分のようなもの、自分で働いて生活している自分を、無産階級と対立する存在のように見なされるということは納得出来なかった。労働者の娘でなく、食うに困らないからといって、伸子は自分が人間としてよく生きようとしている意志をその人々の前に憚ったり、はじたりしなければならないとは思えないのであった。

紫メリンスの前かけをしめて、考えこんでいた伸子は、上りがまちに腰かけたまま、うしろの襖が細目にあけられたのに気づかなかった。急にそこがひろくあいて、

「ぶこちゃん!」

不安にされたような素子の声で、伸子はかえってぎょっとした。

「どうした?」

伸子は首だけあおむけ、

「どうもしない」

といった。

「帰ったんだろう?」

「帰った」

「ぶこちゃん、なかなかいいたんかきったじゃないか」

その言葉は伸子にたいへん意外な感じを与えた。

「――たんかなんかにきこえた?」

「そういうわけじゃないけどさ。