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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
越智のおじけづきかたが、伸子にまざまざと感じられた。意外の重量が自分の体面の上にくずれかかって来たことにおびえながら、越智は多計代の素朴さ、むきさを侮蔑して考えたにきまっている。その表情が伸子に見えるようだった。越智が理想だといったシュタイン夫人は、十八世紀の小っぽけなワイマールで、調馬師の細君で、宰相であり文豪だったゲーテに恋着されていることを、夫妻ともどもの名誉と思う卑屈な宮廷婦女にすぎなかった。伝説は時になんと愚劣だろう。
多計代が、その途方もない真率さで、越智にいわせれば、おそらく粗野で、機略も年甲斐もない若さでひた迫りに越智に迫ったことを、伸子はよかったと思った。そこに、多計代の女としての威厳が感じられた。自分の生存の全重量をかけてみて、越智がそれをもちこたえられる男でなかったことが確かめられたことはよかった。けれども、母が、情熱が凝って焔となったようなつめよりかたで、ああおせば越智にこうはずされ、ここをおせばああとにげられ、ついに全く幻滅していったこころの過程を思いやると、伸子はからだがふるえた。自分のこの手のひらの下に容赦なく鳴る越智の顔がほしかった。