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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「そうでもないけど……」

電燈の灯かげがそのガラスにきらめいてはいるが、午後じゅうぴたりとしまったままでいる客室のドアを、こっちの室の中から保が見ている。伸子は保の気持がわかるようでせつない思いがした。

「――もうすむでしょう」

保は黙って視線をそらせ、煖炉前のバラの花を見た。いつもの保であったら、すぐよって行って、その花の品種だの咲きかたのよしあしを話すのに、今夜は遠くから立ったまま眺め、ただ、

「姉さんがもって来たの?」

ときいた。

「きょう、ほんとはお父様のお誕生日だったのよ。知っている?」

「うん」

保はしばらく立ったままでいたが、また二階へあがって行った。

食卓の準備がはじまった。それを見ている伸子の唇から思わずほとばしるような質問があった。

「二人だけ別? どうして? お母さまは?」

「奥様はお客様とあちらであがりますそうです」

「…………」

やっと自分を抑えた声で伸子は女中に命じた。

「きょうは、お父様のお誕生日で駒沢から来たんだから、御一緒にたべられるまでお待ちしています、って。そう申上げて来て」

狭い中廊下をこして、ドアをノックし、女中がはいって行った。