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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

一つ家の中で、小川豊助を中心にして、姉と妹とが、女としてそういう対照的な存在となって生活しているように感じられ、それは、素子が関西の生家を出て暮している理由にも似ていた。素子を生んだ母は、色の浅黒い、地味で実直な町家の主婦であった。あとの弟妹たちを生んだひとは、姉と反対の色白で、ぽっちゃりしていて、音曲の上手なひとである。

素子は、早速買って来たタバコの箱をあけてすいながら、古い友達の調子で、小川豊助とあれこれと仕事上の話をしていた。

「あなたにしちゃ珍しいもの訳したんですね」

「ああ。あのレーニンですか」

小川豊助は、すこし顔をあからめて、はげている頭をなでた。

「是非ってたのまれましてね。柄にないもんだがやってみたんです。やってみると、面白いですね、文学の下らないものよりよっぽどためになったし、面白かった」

「でも、あの題、何だか文学くさいじゃありませんか」

伸子も同感で、ほほえんだ。二三日前の新聞に彼が訳したレーニンの本の広告があって、その題が「一歩は前へ、二歩は後へ」とあった。伸子はおかしがって、

「どっちへゆくんだかわからないみたいだわ」

と笑った。