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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
同時に、大きすぎた衝撃にひきつづいたその反応の鈍いような状態は相川良之介の死という事件をめぐる外界にも感じられた。
数日来ことのほか暑くて、庭の夏草のいきれさえ息苦しいような家のなかで、伸子は、いまは鈍刀の庖丁で刻まれる思いから、ほそい絹糸でからだじゅうをきつく縛られているような痛さで、相川良之介の行きくれてきわまった人生の過程を辿っているのであったが、新聞は、七月二十五日の朝相川良之介の自殺を大きく扱っただけで、翌日はもうそれについてどんな特別な記事ものせなかった。ただ早川閑次郎が、相川良之介氏の自殺について、という題で、それが特に社会的または文学的な意味をもつ死でないという結論の感想を発表しているだけだった。朝日の文芸欄などは、楢崎佐保子の「時と世間」という別荘生活者の夏季随筆だけをつづけてのせている。伸子は、不思議な気がした。
相川良之介というひとは、作家のなかでも広汎な読者をもっていた筈であった。外国の小説はよむし、漢詩もよむが、日本のいまの小説は、という人たちでも相川良之介の短篇をよむことは恥かしいと思っていなかった。そういう意味で相川良之介は漱石の系統での最後の文人であった。