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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
伸子はそう理解して来ていた。作家の間では、芸術的な良心の点で一目おかれていた相川良之介であった。その相川良之介がこういう風に彼の一生を閉じなければならなかったということは、彼を肯定して来たすべての人々にとって、また彼を肯定しきれなかったすべての人々にとって、ひとごとでなく迫ってゆくことではないのだろうか。
前月号の「文芸春秋」に相川良之介の「侏儒の言葉」という作品がのせられていた。いま再び頁をひらいてその作品を読めば伸子は身の毛のよだつ思いがした。「彼はペンをとる手さえふるえだしたのみならず、涎さえ流れ出した。〇・八のベロナールをつかいさめたのちは、はっきりしているのは僅か半時間か一時間だった。彼はただ薄暗い中にその日暮しの生活をしていた。言わば刃のこぼれてしまった細い劒を杖にしながら」
そのようにふるえる手にペンをとって、その文章の中で現に相川良之介は涎をたらすようになってゆく自分というものの姿を凝視しそれを書いているのだが、その雑誌の特色として四段に区切られた頁の上にその文章をよんだとき、そこに相川良之介らしい文学的悽惨ばかりをつよく感じたのは、伸子の理解が浅薄なためばかりだったろうか。