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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

紋服白足袋姿の「湯島詣」の作者が先輩総代として、硯友社調の弔詞を朗読した。短躯の久地浩が友人総代の弔詞をよみはじめたが、彼は、せき上げる涙に耐えず、友よ! 安らかに眠れ! というくだりは辛うじて会衆にききとれるばかりであった。さざなみのひろがるようにむせびなきがおこった。

「君去りて、我らが身辺とみに蕭々たるをいかんせん」

泣くまいとする伸子の唇が、はげしくふるえた。久地浩の哀傷は丸く短いその全身からほとばしり、ひとり去った旧友相川良之介に向って、彼によってあらわされていた彼等同時代人の芸術性もともに終焉したことをかなしみ訴えるようだった。そのようなまじりけない悲傷を語っている久地浩は、最近の数年来大衆作家となり、出版社をおこし、企業家として成功しつつあった。腕に喪章をまき、日ごろのあからがおも蒼ざめて見える久留雅雄は、やはり通俗作家となって、昨今文壇に流行をきわめている麻雀のもとじめとゴシップされていた。

生きつづける友人たちの生の営みは様々であるが、相川良之介をかなしむ思いではひとつにながれていて、伸子は、白い花ときらめく蝋燭の灯にちりばめられた式場に声ない哀悼の合唱を感じた。