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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
伸子には、女人のことよりも、相川良之介が、僕の遺産は百坪の土地と僕の家と僕の著作権と僕の貯金の二千円あるだけである。僕は、僕の自殺したことで僕の家の売れないことを苦にした。別荘の一つもあるブルジョア達にうらやましさを感じた、と書いている、そのことに妻子をのこし芸術家として死のうとする彼の良人とし父親としての思いの厚さを感じていたのであった。
常にふかいつきあいもなかったことがわかっている自分に、多計代が、どうしてそんなに機微に属することをきいたりするのかと伸子は怪しんだ。
「どうして、わたしが知っているの?」
「だってさ――いずれ文学に関係をもっている女のひとだろうからさ」
「知らない」
伸子は、いとわしそうに眉根をくもらして首をふった。
「相川良之介のようなひとが一緒に死のうとまで思ったくらいなら、おそらく、よっぽど魅力のある女のひとだったんだろうねえ」
それらの言葉から母の関心の焦点がのみこめた。
「相川さんの細君というひとは、いずれ平凡なひとなんだろう?」
――またはじまった! 心のうちで叫ぶように感じ、伸子は出窓にかけていたからだを思わずおこした。