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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「用もあるでしょう」

多計代は、しばらくだまっていたが、わきの手提袋から小鈴のついた鋏を出して爪をきりながら、

「伸ちゃん、相川さんの、あの女人ていうのはいったい誰のことなんだい」

ときいた。

新聞に発表された「ある旧友への手紙」の中に、相川良之介が死にとび入るために一つのスプリング・ボードとして女人を必要と感じたことが書かれていた。一人の婦人が一緒に死のうとしたが、それは出来ない相談となった。やがて、そういうスプリング・ボードもいらないようになった、とかかれていた。相川良之介の死が公表された朝の記事に、記者会見で故人の旧友の一人である久留雅雄が、その点についての記者の質問に答えていた。妻をいたわりたいと思った、と相川良之介が書いているのだから、それはおそらく夫人のことであったろう、と。伸子は、そう理解しなかった。たとい死別するにもしろ、ということばを前提として妻をいたわりたい、とのべられていることは、女人と夫人とは別のひとであった事実を語っている。いずれにしろ、こういう心理は、記録されている全体の経過のうちの一部分であるにすぎないと思われた。こういう心持のときもあった、そういう比重で書いてあることとしてよまれた。