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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
たかが金のことだのにと思う、その金に目あてがつかなかった。木下が、偶然彼自身の屈託からふらりと伸子の家の前で自動車を降りた。小さなきっかけがかさなって、にわかに伸子の旅費の問題も展開した。伸子としては、仕事に立って手に入る金で筋が通ったものだった。
けれども、木下がなにかの気分のこじれで、伸子がそのときの調子でなに心なく云い出した話にとりあわなければ、少くとも、こういう工合で金が出来るようにはならなかっただろう。気分や偶然が作用していると思え、伸子として一生懸命な問題であっただけ、そのことで滅入った。
「なにを、そう拘泥する必要があるのさ」
素子が云った。
「ひきうける以上、さきだってちゃんとそれだけの目算をもってやってることじゃないか。そんなことを考えるなんて――逆のうぬぼれ、だよ。誰が気分だの偶然だので、動くもんか」
外出のなりのまま素子は、タバコをふかしていたが、
「ぶこちゃん、散歩に行こう!」
さきに立って玄関へおりた。
伸子は紫メリンスの前かけをかけたままついて出た。門から右手へつづいているだらだら坂をのぼりきって、この郊外の分譲地の中央通りにあたる桜の並木道を、左へとった。