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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

二十五

旅券が下附されて、ソヴェト大使館の裏書がとれるまで、伸子は旅行のことについて動坂に知らすまいと思っていた。

「ぜひ、そうしましょう。さもないと、あんまり騒々しくなっちゃうから、ね」

多計代がこういうことを知れば、たちまち賑やかすぎることになるのは必定であった。

この予定は、或る日素子が、

「ぶこちゃん、厄介なことになりそうだよ」

と、当惑げな顔つきでよそから帰って来たことで、番くるわせになった。素子がきょうソヴェト関係の記者である友人にあったら、伸子と素子との裏書は、そう簡単にかかれないかもしれないと注意されたのだそうだった。

「――どうして?」

「どうもはっきりしたことを云わないからよくわからないんだけれどね、われわれの素姓を、むこうじゃ信用しないという意味らしい」

「素姓って……」

「なにものか、と思うらしいのさ」

伸子は、ありえないという表情で、

「おかしいじゃないの、ちゃんとわかっているじゃないの」

と云った。

「あなたは翻訳家だし、わたしは作家だし……どっちもきのう開業したわけでもないのに……」

素子は、赤いすきとおるパイプを口の中でころがしながら、考え深い眼つきでしばらく黙っていたが、少し声を低くして、