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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

その通りをもっと広い大通りへ出た角に交番と赤いポストがあり、佐々の家は、じきそのはす向いの奥だった。伸子がもうすこしで大通りへ出きろうとしたとき、まだ見えていない佐々の家の門のところで、きき覚えのある自動車のクラクソンが鳴った。それをききつけて、伸子はちょっとうれしそうに眼をうごかした。よかった、丁度父も帰って来たところだ。そう思って、もう車が入ってしまった門の道を行った。

つきあたりの玄関のところに、三四人の人の姿が見え、混雑している。伸子は、遠目にそれを見て、はっとする気がした。ごたついた玄関の様子で、父が加減でもわるくして帰ったかと思った。いそぎ足で車まわしのところへ来たとき、踏石から玄関の間へあがってゆく白い足袋が見え、鶯色の単衣羽織の裾がちらりと目を掠めた。その車で帰って来たのは、多計代であった。伸子はとっさに、一人で来てよかった、と思った。

玄関のところに、車から出した手提袋やトランクがのこっていて、踏石に父の靴もぬぎすてられてある。伸子は、膝かけをたたんでいる江田に、

「一緒におかえりになったの?」

ときいた。

「はい。旦那様も上野駅へまわってお迎えしてかえりました」