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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

多計代は着いたなりの服装で食堂のいつもの場所に中腰で、早速大きいコップにレモンの切れの浮いた水をもって来させているところだった。多計代の帰京は急なことだったらしく、うちじゅうに特別なざわめきが感じられた。

「おかえりなさいまし……クラクソンが角のところできこえたわ」

伸子は、そういいながら、母のわきに自分も中腰になった。

「じゃあ知らなかったの?」

「しらなかったわ」

「――あした隅田さんの御婚礼にどうしても出なけれゃならないもんだからね。急に帰って来たってわけさ」

多計代は、しばらく会わなかった伸子を、しらべるように上下に見た。

「どうしているの?」

「――きょうは、ちょっとお願いがあって来たところだったの」

「へえ……」

父ひとりのつもりのところへ伸子が来て、何をたのもうとしたのだろう。多計代は、あらわに、そういう表情をした。

「何の御用かしらないけれど、わたしは、ちょいと着物を着かえさせてもらいますよ」

いれちがいに、響く足音をたてて、兵児帯をまきつけた泰造が入って来た。

「どうです!」

伸子に向って、泰造は握手するように手をさしのべた。

「たいしたことになったじゃないか」